遺言についての裁判例

1 遺産分割の禁止                           遺産分割の方法について、民法は、遺言で、遺産分割を禁止することができることも定めています。禁止できる期間は5年以内です。遺産全部についてだけでなく、一部についてのみ遺産分割を禁ずることもできます。ただ、仮に5年間分割を禁止することになると、配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例といった税法上の特例を使えるのかという問題が生じてきます。実際に、分割の禁止について定めた遺言を見たことがありませんし、実際に使われる例は稀だと思いますが、配偶者に生活の基盤を築く時間の猶予を与え、3年間に限り分割を禁止しておくというような使い方は良いことかもしれません。なお、被相続人が遺言で定める場合のほかに、遺産共有者である相続人全員が、5年以内の特定の期間を定めて、分割をしない旨の契約をすることもできます。

2 相続分の指定と指定の委託

(1)相談分の指定             

被相続人は、遺言で、相続分を指定することができます。例えば、長女に3分の2、次女に3分の1と指定するように、一部の相続人について定めることもできますし、相続分を零と指定することもできます。そのため、特定の相続人の相続分を零とするというだけの遺言の作成もでき、実際に、ある公証役場では、「配偶者の相続分を零にする」という遺言を、作成することがあるそうです(もちろん、配偶者ですから遺留分があり、それを説明しても「構いません」と答える遺言者も多いようです。)。また、「自宅を配偶者に相続させる」という遺言は、原則として、遺産分割方法の指定と解されますが、ただ、自宅の価値が相続財産の総額に配偶者の相続分を乗じた金額を上回るような場合には、遺産分割方法の指定のみならず、相続分の指定を含む趣旨の遺言と解されています。しかし、問題となるのは、相続人に与えられた財産の価額が、その相続人の法定相続分に相当する額を下回る場合です。

Aの相続財産は、自宅を含む複数の不動産と金融資産です。被相続人Aの相続人は長女Bと長男Cの2人です。被相続人Aは「Bに自宅を相続させる」という遺言を残しました。自宅の評価額は、相続財産の総額の2分の1に満たないという場合です。

この事例では、「Bに自宅を相続させる」という遺言が、相続分の指定を伴う趣旨か否かの解釈が問題となります。相続分の指定を伴うというのであれば、長女Bは他の遺産から分配を受けとることができなくなってしまいますが、相続分の指定を伴わないということであれば、自らの法定相続分まで、他の遺産についても権利を主張できることとなります。この点、上記の事例と同様に、法定相続分の額を下回る価額の特定の遺産を「相続させる」遺言が残されていたケースについて、その遺言の解釈を示した裁判例があります。具体的には、他の相続人に「その余の遺産すべてを相続させる」旨の記載が遺言に無かったこと等を理由として、相続分の指定を伴うものでわないと判断したことです。ただ、相続分の指定の趣旨を含むかどうかは、結局は、遺言の解釈の問題になり、遺言の文言や内容その他の事情を踏まえることで、個別の事案ごとに判断をすることになります。つまりは、裁判所で最終的な判断が下されるまでは不確定な状態が続くということであり、そのような疑義を残すようなことがないように、遺言を作成するときに、上記の事例であれば、自宅以外の財産についてはどう分けて欲しいのかをもっと明確にしておくことが肝要かと思われます。

(2)相続分の指定の委託

相続分の指定の方法として、遺言者自らが指定するほかに、第三者に指定の委託をする方法をもあります(いずれの場合も遺言によることが必須となります)。「第三者」に相続人も含まれるかどうかについては、これを否定する裁判例が出ております。すなわち、配偶者や長男に指定するということが出来ないことになっています。そのことから、使いにくい制度であり、実際に、遺産分割方法の指定の委託と同様に相続分の指定を委託する遺言を利用できるという場合は、かなり限定的ではあると思います。

(3)相続分の指定と相続債務

相続分の指定がされた場合、相続債務も、指定相続分の割合で承継されることになっています。しかし、これはあくまで相続人間の内部関係に過ぎないことから、相続債権者に対して主張するにはその同意が必要であり(同意のない限り、相続債権者に対しては法定相続分に従って債務を弁済する責めを負う。)というのが民法の考え方となっています。一般の感覚とは異なりかと思われるかも知れませんが、注意が必要なところとなります。これに対し、租税債務に関しては、指定相続分に従って承継することになっており債権者の同意といったことは問題になりません。また、相続税の申告の場合でも、相続債務は指定相続分に応じて負担することとされています。

(4)相続分の指定と遺留分

相続分の指定は、遺留分に関する規定に違反することができず、遺留分を侵害する相続分の指定がなされた場合には、相続分の指定全体ではなく、遺留分を侵害する限度で相続分の指定が無効になります。具体的に、遺留分減殺請求がされた場合に相続人の指定相続分をどのように修正するかは、最高裁判所小法廷決定平成24年1月26日が判断を示しています。なお(3)で租税債務は指定相続分に従い承継されると述べましたが、相続分を零と指定された相続人が遺留分減殺請求をした場合に、被相続人の所得税の納税義務を遺留分割合に従って承継するかが争われた事案につき、これを否定する判決が出ています(東京地方裁判所判決平成25年10月18日)。